SUBARU、Oracle Cloud Infrastructureを導入して、1億メッシュのHPC環境を実現

SUBARUの自動車開発の本拠地である群馬県太田市の群馬製作所本工場は、製品開発と将来技術の先行開発に取り組んでおり、HPCを駆使したシミュレーション解析の企画・導入・運用を行い、車両の衝突安全性・走行音の研究開発チームと協働で製品開発を行っています。

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OCI採用の決め手は運用コストの大幅な削減でした。また、今後さらにOCIを活用することで当社の設計・開発効率向上に寄与し、新たな技術に対応していくための柔軟性とアジリティもさらに高め、あらゆる場面で安全性を高めたSUBARUの車作りに、これからも日々努力してまいります。

竹熊 義広 氏 株式会社SUBARU エンジニアリング情報管理部 IT運用管理課

ビジネス課題

SUBARUの独自技術が生み出す水平対向エンジン、車体・シャシー剛性の大幅向上やさらなる低重心化、運転支援システムの「アイサイト」など、人の「感性」を大切にした性能の追究、そして人を中心としたクルマづくりから生み出されるSUBARUのクルマは、フォレスターやレガシーなど、日本のみならず、北米やヨーロッパなど世界中から高い人気を誇っています。

同社ではSUBARUのクルマがさらなる「安心と愉しさ」を実現するために日々努力が絶え間なく続けられています。近年、新車開発時のシミュレーションは高精度化の一途をたどっており、計算負荷の増加にハードウェアの増強が追いつかず、車両開発におけるシミュレーション能力の向上が課題となっていました。10年前に比べて、CAE(Computer Aided Engineering)のサーバーの規模を20倍ほどに増強しても、それでも足りない状況でした。

衝突安全性のCAEでは、分析に使う要素(メッシュ)の数が、かつては500万個程度でしたが、今は1000万~2000万要素に拡大しています。音開発(流体解析)では、さらに1億~4億ものメッシュの数を計算する能力が必要となります。

そこでSUBARUは車両開発におけるシミュレーション能力をさらに改善し高い性能と運用コストの削減を両立するために、これまで運用していたプライベートクラウドからパブリッククラウドへの移行を検討しました。日本の自動車メーカーで構成する業界団体の日本自動車工業会におけるクラウドワーキンググループなどに積極的に参加してパブリッククラウドの有効活用、情報収集を行いました。

その取り組みの中で、自工会メンバーである他社の導入事例も確認した後に、PoC(実証実験)を行い、最大の課題となっていたコストの削減、HPCのノウハウ面をしっかりとサポート出来るパートナーも確認した上で、SUBARUはこれまでオンプレミスで稼働していた最大数万コアに及ぶ大規模HPCワークロードをOracle Cloud Infrastructureに移行することを決めました。

高性能な「OCI」でワークロードを実行することでCAE計算時間と運用管理時間が約20%短縮し、高機能化した上でコストダウンにも成功しました。

Subaruがオラクル を採用した理由

より優れた衝突安全性能や走行性能を追求する膨大なシミュレーションを迅速に行うためには、より高度化し、増大するシミュレーション需要の課題に対応しながら、コスト削減を実現できるクラウドが必要でした。そのためには、柔軟性とアジリティを両立できる OCI のクラウド基盤が必要でした。

「OCI」は、RDMA*クラスター・ネットワークを備えたベアメタル・HPCコンピューティングをパブリック・クラウドで初めて提供し、2マイクロ秒未満のレイテンシと100Gbpsの帯域幅を実現しています。SUBARUでは、「OCI」への移行により、場所や電力などの物理環境要件や保守費などのIT管理運用コストなどオンプレミス環境でのシステム拡張での課題を解消し、エンジニアが複雑かつ大規模なシミュレーションを実行するために必要な計算能力を常に利用できる環境を実現する必要がありました。

クラウド上で、必要なときにリソースを迅速に拡張可能にできること、および容量不足などで発生していた障害リスクを回避できることや、「OCI」の高い性能により、オンプレミス環境以上の性能で、CFDシミュレーション向上による車内音の品質向上、衝突解析における計算のばらつきの解消や最適な構造計算を可能にし、性能品質の安定化を図りながら、計算時間の短縮化、開発コストの削減を実現できます。

また、OCI選定の決め手となったのが、「Oracle Cloud Lift Services」でした。これは、顧客企業のクラウド移行を支援するサービスをOracleが無償で提供するものです。OCIを初めて利用する顧客向けに、クラウド利用開始までの期間短縮とリスク低減を目的として提供されています。

従前のオンプレミス時代からSUBARUのシステムをサポートしてきたパートナーのアルゴグラフィックスが、OCI導入に際しての事情を深く理解した上で最適な環境構築を支援できることもOCI選定における大きな要因でした。

「OCI」の高い性能により、オンプレミス環境以上の性能で、CFDシミュレーション向上による車内音の品質向上、衝突解析における計算のばらつきの解消や最適な構造計算を可能にしています。

成果

HPC環境を以前のオンプレミスのプライベートクラウド基盤からパブリッククラウドの OCIへ移行を行った同社では、掲げていた3つの目的を達成しました。その目的の1つ目は、「安心と愉しさ」の性能目標を達成することであり、「安心」の性能を提供するためには、机上のCAE解析と実車を用いた衝突実験を繰り返して、安全性が高い車体構造を造り上げる必要がありました。

また、同社のスローガンにも掲げられている、「愉しさ」の性能を提供するためには、空力操作安定性・風切り音のCAE解析適用を目論見通りの性能が求められます。昨今とくにEV(電気自動車)では、エンジン音がなくなり風切り音がより目立つことが想定されるため、それを踏まえた上で、SUBARU車で実現したい「愉しさ」への取り組み強化が、重要な課題となっていました。

2つ目の目的は、開発のやり方を改善して、開発日程の短縮とともに試験車を削減することでした。そして、3つ目の目的は、導入・運用のコスト削減です。コスト削減は、顧客がSUBARU車を購入しやすい価格に設定するためには、開発費用の削減も重要な要素となってきます。また、これまで自社のデータセンターに置かれた計算用サーバーの物理的なスペースと、消費電気の負担を削減していくことが重要になっていました。

SUBARUでは、Oracle Cloud Lift Services の支援サービスを活用することで、プロジェクト開始までの検証環境立ち上げの無償サポート、パートナーのアルゴグラフィクスの OCI HPC 構築スキル・ノウハウの向上、機能および性能検証実施によるクラウド懸念事項を払拭できました。クラウドサービスとしてHPC基盤を利用することで、求めていた運用費の大幅な削減とピーク時のリソース制御を実現しています。

本番稼働をスタートした後、すぐに改善効果が表れています。まずCAE計算時間は、インフラ側面(CPU/計算コア数)など合算してトータルで約20%短縮を実現しました。

OCIにAltair PBS Professionalのクラウド・バースティング機能を組み合わせて活用することで、計算時に必要なノードを起動し、計算が終了したらノードを削除することで、リソースの柔軟な運用およびコストの最適化を図っています。管理面では、以前のオンプレミスと比べ、データ転送やモデル規模拡大による、転送工数・計算時間増加など、運用・開発業務でのマイナス部分もありますが、管理面全体でも20%短縮しています。

さらに、発注から開発着手までの時間が、オンプレミスと比べて大幅に短縮されたことも、Subaru竹熊氏は高く評価しています。サーバーの場合、発注から納品まで4カ月はかかり、その後に構築しなければいけません。OCIは、発注から3週間後には構築が開始できる状態になっていたので、2カ月以上短縮できました。OCIを導入することで、50%以上の発注から開発着手までの時間短縮に成功しています。

“プロジェクトのメンバー全体がワンチームになっていく様子を実感することができました。受注発注という関係ではなく、ビジネスパートナーの関係が築けたと思います” Subaru竹熊氏は評価しています。

パートナー

パートナーである アルゴグラフィックス の東日本第二S&S統括部ソリューション&スペシャリスト 別府 貴 氏をはじめとしたチームが提供する「OCI環境構築支援サービス」、および、オラクルのクラウド・エンジニアリングチームが提供する「Oracle Cloud Lift Services」(OCLS)を活用して、約2カ月という短期間でシステム構築および導入展開を実現しました。

公開日:2023年3月7日

お客様について

日本のみならず、海外でも高い人気を誇る自動車メーカーのSUBARU。同社ではHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)のワークロードをオンプレミスからクラウドに移行し、高い性能と運用コストの削減を両立しました。